少子高齢化が進む日本では、外国人材の受け入れが企業経営に欠かせない時代になりました。しかし、外国人社員が長期的に定着し、戦力として活躍するためには、業務遂行能力だけでなく、生活の基盤となる日本語能力の向上が不可欠です。近年、国は外国人材の日本語教育に対する企業の責任を、従来の努力義務からより実効性ある形へと強化しています。特に、2027年4月施行予定の「育成就労制度」では、日本語教育の支援が受入機関(企業)に課される支援計画の重要な柱として位置づけられる見込みです。
本記事では、行政書士の視点から、この制度改正の背景と今後の実務対応、そして企業が利用できる支援制度を解説します。
日本語教育の強化は、単に業務指示を理解させるためだけではありません。外国人が地域社会で孤立せず、日本人と同等に生活し、キャリアを築くための共生社会の実現が目的です。
現行の技能実習制度に代わる「育成就労制度」では、外国人材の育成と特定技能への円滑な移行が重視されます。この新制度において、受け入れ機関(企業など)に対し、法案の概要では以下の支援が義務付けられる方向です(詳細は今後の省令で確定)。
現行の「技能実習制度」に代わり導入される育成就労制度では、外国人材を「育てる」視点が重視されます。
法案および省令の概要では、受入れ機関に対し以下のような支援を求める方向性が示されています(※詳細は今後の省令・指針で確定予定)。
| 日本語能力向上の支援 |
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| 支援計画に基づき、入国後速やかに継続的な日本語学習機会を提供するよう求められる。 |
| キャリアプランの明確化 |
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| 勤務時間外でも学べるよう、スマホ対応の教材を導入し、学習記録を管理。 自主学習の可視化が、定着支援の実績として評価されやすくなります。 |
このように、企業が日本語教育を支援計画に含めなければ、実質的に受入要件を満たせないケースが想定されます。単なる任意の教育ではなく、企業としての体制整備が求められる段階に入ったといえます。
厚生労働省の助成制度で、外国人社員に対する日本語研修も、業務上必要な訓練として認められれば助成対象となります。研修費や賃金の一部が助成され、集合研修・オンライン研修(eラーニング)など幅広い形式が対象です。ただし、事前に訓練計画を作成し、労働局へ申請が必要です。
「特定技能」外国人を雇用する場合、企業は支援計画に基づき、生活オリエンテーションや日本語学習支援を行う義務があります。この業務を外部の登録支援機関に委託する際、一部自治体(例:愛知県・群馬県など)では、委託費用の公費負担・補助金制度を試行的に導入しています。
全国一律の制度ではありませんが、自治体レベルでの公費支援の動きが広がりつつあります。自社所在地の自治体が該当するか、最新情報を確認するとよいでしょう。
企業単独で日本語講師を手配するのが難しい場合、地域の日本語教室やボランティア団体との連携が有効です。文化庁や自治体の「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」などを通じて、企業が地域資源を活用することが可能です。こうした地域との協働実績は、入管手続きや支援計画の審査でもプラス評価される傾向があります。
ただ日本語教室に通わせるだけでなく、業務と連動させることで教育効果は飛躍的に向上します。
| 業務指示の「やさしい日本語」化 |
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| 専門用語を避け、簡潔で分かりやすい表現を社内ルールとして徹底。理解度を確認しながら進めることで、教育効果が高まります。 |
| 評価制度への組み込み |
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| JLPTやJFT-Basicなどの日本語試験合格を、昇給や昇進の評価項目に加えることで、社員のモチベーション向上につながります。(※運用の際は就業規則・労使協議との整合に留意が必要です) |
| オンライン学習の活用 |
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| 勤務時間外でも学べるよう、スマホ対応の教材を導入し、学習記録を管理。自主学習の可視化が、定着支援の実績として評価されやすくなります。 |
外国人社員への日本語教育は、もはや福利厚生ではなく、企業の社会的責任と人材戦略の両面に関わる投資です。2027年の育成就労制度の本格施行に備え、企業は今のうちから日本語教育体制の構築を進めるべきです。
支援制度の活用、支援計画書の作成、登録支援機関との連携など、制度対応には専門的知識が必要な場合もあります。実務の整備にあたっては、外国人支援に詳しい行政書士などの専門家への相談をおすすめします。
※本記事は2025年11月時点の法令・公表資料に基づいて作成しています。制度の詳細は今後の省令・運用指針で変更される可能性があります。最新情報は、出入国在留管理庁・厚生労働省・文化庁等の公式発表をご確認ください。
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